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「屋根裏の狂女」とは誰のこと?

文学部 英語英米文学科
向井 秀忠教授

大学で「文学」について勉強することにはどんな意味があるのでしょうか。文学作品なんて、わざわざ大学で勉強しなくとも、楽しみのために読むので十分ではないかという意見には根強いものがあります。確かにそのように思わないでもないのですが、私は大学において「文学」を勉強する大きな意味があると信じています。私の専門はイギリス小説なので、みなさんと具体的な作品に触れながら、そのことについて考えてみたいと思います。

イギリスの19世紀はヴィクトリア時代に、イングランド北部のハワースという小さな村で小説を書いていた三姉妹がいました。シャーロット、エミリー、アンのブロンテ家の娘たちはそれぞれ注目すべき小説や詩を書いていますが、一番有名なのはエミリーの書いた『嵐ヶ丘』でしょう。姉のシャーロットが書いた『ジェイン・エア』も同じくよく知られています。

『嵐ヶ丘』は強烈な愛と憎悪の感情を描いていますが、『ジェイン・エア』のヒロインも自分の感情を隠そうとしません。そのため、周囲に理解されず、つらい経験もするのですが、彼女にはあらゆる逆境を乗り越える芯の強さがありました。その強さこそが、多くの読者、特に女性たちを惹きつけてやまない魅力となっているのは確かです。そんなこともあり、この作品は、意志の強さでさまざまな苦難を乗り越え、やがて自立していく若い女性の姿を描いた物語として高く評価されてきました。

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ところが、時代が進むにつれ、この作品にはもっと多くの提言が含まれているのではないかという立場から、作品についてさらに深く考えてみようという動きが出てきます。まず、注目を浴びたのが、ヒロインではなく、事情があってお屋敷の屋根裏部屋に監禁されている女性の存在です。ある批評家が彼女のことを「屋根裏の狂女」と呼んでから、現在では、女性たちが社会の中で自由に振る舞えずに窮屈な思いをしている状態(少し難しく言うと、「社会的に抑圧されている状態」)を比喩的に表現する言葉として一般にも使われるようになりました。いかに自由に見えようとも、本人たちがそうは感じていないにしても、女性たちが真に自分のことを決めることができないのであれば、それはまさに屋根裏に監禁されているこの女性と同じ立場に追いやられているのではないか、というのです。「屋根裏の狂女」はその登場人物だけではなく、選択の自由がかなり制限されていた当時の女性たちに広く当てはまるというのが、この批評家の指摘でした。それでは、これは当時の女性たちだけの問題なのでしょうか。現代において、もし女性であるというだけで男性とは異なる基準で扱われることがあれば、当時と同じ不平等な傾向が続いていることになります。そう考えていくと、「屋根裏の狂女」は現代の私たちの問題であることがわかってきます。

この他にも、作品を注意深く読むと、帝国主義と植民地、血筋や遺伝、体罰・虐待・いじめなどの学校での暴力、DVや介護をめぐる男女関係のあり方など、たくさんの現代的なテーマを扱っていることがわかってきます。この作品は単なる恋愛小説ではなく、広く社会の問題を含み持っているのです。そして、この小説を読むことで、作品で扱われているさまざまな問題が、決して他人事ではなく、読者である私たち自身にも大きく関わるものであることにも気づかされます。文学作品を勉強することは、自分たちはそんな抑圧的な社会の中でどのように生きていくべきなのかを考えるためのきっかけやヒントを得ることでもあるのです。

さて、あなたは、自分が「屋根裏の狂女」ではないと言い切ることができますか? そう言い切れる人も、そうはできない人も、まずは一緒に『ジェイン・エア』を読んでみませんか。きっと、あなたの周りの世界も変わって見えるようになることでしょう。

~TEA BREAK~
「ジンジャー・ビール」をお試しあれ

イギリスのファンタジーを読んでいると、子どもたちが「ジンジャー・ビール」を飲んでいる場面がよく出てくる。確か、ハリー・ポッターも飲んでいた。「子どもがお酒を!」と驚くことなかれ。これは、お酒ではなくて、ノンアルコール飲料。「ジンジャー(ginger)」は「生姜(しょうが)」という意味なので、日本でもおなじみの「ジンジャー・エール」のような生姜風味の炭酸飲料のこと。この二つ、飲んだ感じはまったく違う。ジンジャー・エールはカナダの会社が作ったもので、炭酸水に生姜の絞り汁、砂糖、香料、カラメルなどで人工的に着色したもの。一方、ジンジャー・ビールは、生姜、砂糖、水に酵母を加えて自然に発酵させた、まさにビールと同じ製法で作られる飲み物。そのため、生姜の風味がジンジャー・エールより強くておいしい。私も大好きで、イギリスに行ったときには必ず飲む。みなさんも、イギリスに行ったときには試してみて。

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