Ferrisで学ぶ

さまざまな国際協力

国際交流学部 国際交流学科
高柳 彰夫教授

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今、世界は

この写真はフィリピンの首都マニラのビジネスセンターのマカティ地区から車で数分のところで数年前に撮影されたものです。スラム(このスラムは写真撮影の3か月後、不審火で焼失しました)とビジネス街が対照的です。途上国の都市でよく見かける光景です。フィリピンをはじめ東南アジア諸国は経済発展で注目を集めますが、マニラやバンコク(タイ)やジャカルタ(インドネシア)の人口の20-30%はこのようなスラムに住んでいるといわれます。そしてフィリピンの人口の37%はフィリピン政府が定める貧困ラインを下回る、つまり人間として当たり前の生活をするのに必要な所得も得られない状態にあります。

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世界的には、11億人の人々が絶対的貧困(1日1ドル以下とされる)下にあります。特にサハラ以南のアフリカでは2人に1人が絶対的貧困下にあります。所得格差も世界的に拡大しています。世界の最も豊かな20%と貧しい20%の所得格差は、1960年には30:1だったのが、20世紀の終わりには74:1になりました。世界で1億人の就学年齢の子どもたち(5人に1人)が学校に行く機会がなく、その60%近くが女子です。毎年1,100万人の乳幼児が予防可能な病気で、50万人の女性が妊娠・出産に関係する病気で亡くなっています。

2000年の国連ミレニアム総会では、ミレニアム開発目標(MDG)として以下のような目標が国際的に採択されました。

  • 2015年までに1日1ドル未満で生活する人口比率を半減させる。
  • 2015年までに飢餓に苦しむ人口の割合を半減させる。
  • 2015年までに全ての子どもが男女の区別なく初等教育の全課程を修了できるようにする。
  • 初等・中等教育における男女格差の解消を2005年までに達成し、2015年までに全ての教育レベルにおける男女格差を解消する。
  • 2015年までに5歳未満児の死亡率を3分の2減少させる。
  • 2015年までに妊産婦の死亡率を4分の3減少させる。
  • HIV/エイズの蔓延を2015年までに阻止し、その後減少させる。
  • マラリアおよびその他主要な疫病の発生を2015年までに阻止し、その後発生率を下げる。

しかし多くの目標は達成が困難といわれ、国際社会のいっそうの取り組みが求められます。

02

政府の援助:ODA

国際協力というと政府開発援助(ODA)を思い浮かべる人も多いでしょう。先進諸国が行うDAは合計で700億ドル近くになります。ODAは途上国の開発や福祉の向上を主目的にしています。しかし実際には援助する側の政治、外交、経済の目的達成の手段であることも少なくありません。例えば、アメリカは外交・安全保障戦略、イギリスやフランスは旧植民地との関係を援助政策で重視してきました。

日本は2000年まで10年間、世界で最大の援助国でした。最近では財政危機のためODAは減らされ、アメリカについで第2位です。

日本のODAには、以下の特徴があります。

  • 主要な援助対象がアジアである。
  • 他の先進国に比べ、電力や交通など経済基盤整備への援助の割合が高く、貧困解消に直接関わる教育・保健などへの援助が少ない。
  • 他の先進国がODAのほとんどを贈与でやっているのに対し、日本は半分を借款で行っている。

こうした日本のODAについては、アジアの経済発展に貢献したとの見解がある一方で、

  • もっと他の地域、特にアフリカへの援助を増やすべき
  • もっと貧困解消に直接関わる部門に援助を集中させるべき
  • 贈与を中心とすべき

との批判があります。また援助プロジェクトが環境破壊を招いた例などもマスコミなどを通じて知られてきました。

03

地方自治体の国際協力

フェリス女学院大学のある神奈川県は、長洲一二知事(故人・在任1975-95)時代から「民際外交」を唱え、民際協力基金を設けてNGOの国際協力活動を支援してきました。また教材「たみちゃん」シリーズの作成など、世界の貧困と開発をめぐる問題についての啓発活動(開発教育)にも力を入れてきました。横浜市はアジア太平洋都市間協力ネットワーク(CITYNET)の事務局を務め、CITYNETを通じて都市の行政能力の向上や環境対策などの分野で国際協力を行ってきました。欧米諸国ではNGOと自治体共同の国際協力の活動は「地域主体型開発協力」(Community-based Development Initiatives = CDI)と呼ばれ、活発に行われています。 基礎教育、保健、水道などの分野は先進国では自治体の仕事です。自治体は公害対策や環境保全にも先駆的に取り組んできた例が少なくありません。地域ではまちおこしや有機農業などの取り組みも多くあります。途上国の人々の貧困解消や生活向上に直接関係するノウハウは自治体や地域にあるのです。金額的には大きくないものの、自治体も国際協力の重要な担い手です。

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市民の国際協力:NGO・市民社会の活動

NGOとは、軍縮・平和、貧困解消と開発、人権、ジェンダー、環境などの問題に取り組む市民のイニシアティブでつくられた団体です。近年NGOなど市民社会の諸団体の国際協力への注目も急速に高まっています。
欧米諸国では1940-50年代からNGOは活発に活動してきました。ケア(アメリカ)、オックスファム(イギリス)などの団体は数百億円の年間予算で活動しています。国境なき医師団は1999年にノーベル平和賞を受賞しました。日本では1980年ごろ、インドシナ難民問題をきっかけにNGOの活動が多く見られるようになりました。また途上国でも近年急速にNGOの活動が活発化しています。農村や都市スラムでも住民たちがグループを結成し、自らの生活向上のために活動しています。
NGOの活動というとまず現場での開発活動があります。一つは紛争や災害の際の緊急援助や復興の活動です。もう一つが、教育、保健衛生、農村開発、住民組織づくりなどの長期的開発の活動です。NGOは貧困層や被災者の参加を得ながら、直接支援を行いやすいことから注目されるようになりました。

NGOの国際的な貧困と開発の問題についての啓発活動(開発教育)や政策提言の活動もまずます重要になっています。2001年から開かれるように なった世界社会フォーラム(WSF)は、世界のNGOや知識人が経済中心のグローバリゼーションとは違った世界の方向を議論する場となっています。 2005年にはMDG採択から5年たったのに合わせ、「貧困に対するグローバルな行動」(G-CAP)と呼ばれる国際キャンペーンが行われています。日本 の「ほっとけない世界の貧しさキャンペーン」もその一環です。NGOなど市民社会のさまざまな組織が国境を超えてネットワークをつくり、発言力を高め、 「地球市民社会」が台頭しているとも言われます。

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マニラのスラムの住民グループと一緒に

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国際協力を学ぶ:それは「開発」を問い直すこと

このように国際協力を行うアクター(行為主体)は多様です。近年、世界の開発問題や国際協力についての科目やコースは大学・大学院で増えています。

国際協力を学ぶに当たって大切なことは、まず「開発」(あるいは「発展」)とは何であるのかを問い直すことです。かつては経済成長や工業化や西欧化を意味することと考えられました。しかしそれで世界の貧困問題の解決が必ずしも進まず、むしろ格差や環境破壊を生み出しました。NGOの国際協力が注目されるようになったのも、経済成長や工業化とは異なったアプローチをとったからです。国連などの場で「人間開発」や「社会開発」といった考え方も台頭し、貧困層の直接的なニーズの充足と住民や市民社会の参加が唱えられるようになっています。

「開発」を問い直すことは、経済中心に進む今のグローバリゼーションを問い直すことでもあります。また、日本では開発というと大規模公共事業中心に考えられがちでした。日本でも所得格差、地域間格差が広がっています。国際協力を学びながら、日本の開発はこれでよいのか問うてみることも重要なことです。


■参考文献■
国連開発計画 『人間開発報告書』
西川潤 『世界経済入門(第三版)』 (岩波新書)
西川潤 『人間のための経済学』 (岩波書店)
西垣昭・下村恭民・辻一人 『開発援助の経済学(第三版)』 (有斐閣)
馬橋憲男・斉藤千宏編 『ハンドブックNGO』 (明石書店)
今田克司・原田勝弘編 『連続講義・国際協力NGO』 (日本評論社)

~TEA BREAK~
「難しい」なんてない!

矢沢あいの漫画『NANA』の主人公小松奈々は恋愛依存体質。好きになるのはいつも同じタイプ――おしゃれで優しくて経済力があって キメ台詞を言ってくれる男――、でも長続きしません。
「単にロン毛フェチなんじゃ…」ともう一人のナナがつぶやきます。
親友との本音の応酬を通して奈々は気づきます。
相手ではなくて自分に問題があったことに。あまりに強い恋愛願望や結婚願望をもっていたせいで、「自分かわいさ」の恋愛しかできなかったこと。相手を本当に見ていなかったこと。

大学の専攻分野の選択も、自分の将来のステータスや経済力を決めるという意味において、恋人選び以上の重要性をもちます。「難しくなくて、楽そうで、流行の学科?」なんて言ってる人は、実は奈々の自己愛的な恋人選びと全く同じだということに気づきませんか?難しい分野、難しくない分野はありません。難しい言語、難しくない言語がないのと同じです。

「難しい、難しい、もう限界だ」と思いながらも毎日勉強を続ける人は、必ずそれをものにする。

「難しい、もうやめた」と言って放り出す人は、それきり。

自分が努力できること、自分にも能力があること、それをきちんと自覚しているかどうかの問題であって、「難しい」という言葉に意味はないのです。本当の自分を知っていれば、誰にも頼らず、何にも惑わされることなく、対象に打ち込むことができるでしょう。大崎ナナが歌手として舞台で輝き、かつレンに対して命がけの愛を貫くことができたように。