パリ国際芸術都市

「パリ国際芸術都市」(Cité Internationale des Arts)は、フランス政府が芸術家に活動・研修滞在施設を提供することを目的として設立した財団により、パリの中心部、セーヌ川沿いに建設された宿泊施設です。1965年から世界各国の芸術家に開放されています。 フェリス女学院では、音楽研修・活動を行う芸術家のためのアトリエ(2室)の使用権を所有しています。学院の教員等が芸術活動を通じて、日仏相互の文化交流に寄与すること、さらに本学の学生、同窓生等が西欧文化の凝縮してあるパリにおいて、専門技芸を一層向上させ、学院の目指す教育効果をより確実なものとすることにより、国際的な人材を育成することを目的としています。

パリ国際芸術都市

利用方法

利用希望者は、利用者募集要項を確認の上、必要書類を総務課に提出してください。本学音楽学部教授会およびパリ国際芸術都市理事会において審査を行います。
利用者募集要項2022-2023

利用者の声

長坂楓さん(ムードン県立音楽院(マルセル・ドゥプレ音楽院)修了)
滞在期間:2019 年 9 月~ 2021 年 8 月
研修機関:ムードン県立音楽院DEM課程、マルセル・ドゥプレ音楽院

長坂楓さん体験談

パリ国際芸術都市という、安心して音楽を学べる環境で2年間を過ごし、ムードン県立音楽院DEM課程を“Très bien”で修了できたことに心から感謝いたします。

2019年9月に渡仏し、移民局に行ったり、携帯電話や銀行口座開設の手続きを進めたりしながら、ムードン音楽院の入学試験に向けてプライベートレッスンを1ヶ月間受講しました。そして10月からオリヴィエ・ピエール・ヴェルニョ先生のもとで学べることになりました。

入学後すぐ、抜き打ちのソルフェージュと音楽史、和声のクラス分け試験がありました。その結果、ソルフェージュの授業は免除、和声は前期のクラスをスキップして後期のクラスに入れたものの、フランスの和声の記号が日本とは全く別の書き方で大混乱に陥りました。このままでは単位が取れないと焦り、フランス人の子供用に書かれたフランス和声の本を買いに走りました。そして10月の秋バカンスの間に独学してなんとか立て直し、授業についていくことができました。

お世話になったOlivier Pierre-vergnaud先生と

数か月するとしだいに新しい生活に慣れ、音楽院に通いながらプライベートでフランス語レッスンへ通う日々が続きました。2019年末、中国で新型コロナウイルスが発見され、翌年2月にはイタリアへと広がっていきましたが、フランスはのんびりしたものでした。しかし、3月になって国内でも急激な感染爆発が起こり、ロックダウンになりました。私の生活も一変し、実技を含む全ての授業がオンライン授業になりました。

学校でのレッスン風景


夕方から子供たちでにぎわうコンセルヴァトワール
2020年9月、新学期開始と同時にようやく対面授業に戻りましたが、座学はオンライン授業と対面授業を繰り返していました。幸いにも、クラリネットのレッスンは対面になったのですが、驚いたことに、私の次のレッスンに入ってきた生徒は6歳の男の子でした。フランスでは、どこの音楽院も子供用のコースを設けていて、夕方からたくさんの子供達が通ってきます。こんな小さい頃から身近に音楽を学べる環境があるなんてすごい、と改めて思いました。と同時に、この頃から子供に教えることに興味が湧き、子供たちのレッスンを聴講させてほしいとお願いしました。少し教えてみたりしているうちに、楽器を教えることに喜びを感じるようになりました。

私の先生は、楽譜を使わない独自の音階練習のメソッドをもっていて、最初の数ヶ月は1時間のレッスンが音階だけで終わってしまうこともありました。しばらくして、スケールのメソッドに慣れてくると、私が不慣れであったフランスの現代曲の課題がバンバン出されるようになりました。非常にハードなレッスンでしたが、フランス人から習うフランス曲のレッスンはとても勉強になりました。

また、文化面でも日本と違う場面があり、戸惑いつつもフェアでよいなと感じたことがありました。
日本では一般的に、楽器店で楽器の部品を買いに行く際、先ず先生に相談し、先生から楽器店に連絡が行き、マウスピースなど数を揃えてもらうのが多い方法だと思われています。そこでフランスでも日本式に、「マウスピースを選びたいのですが」と申し出たところ、「そうなんだ、いってらっしゃい」と言われただけで、勝手に楽器店で購入しても何の支障もないようでした。教師・生徒の立場に関係なく自由に選べる環境は、日本も見習いたいと思った出来事の一つです。

また、子供のレッスンを聴講し、フランスでは早期から「自分で考える力を育てるレッスン」を重視していることに気づきました。日本の場合、大学に入ってもなお、先生と同じ部品を使い、ブレスを吸う場所もフレーズも全て考えることなく先生の真似をすることが多かった気がします。それに対し、フランスでは中学校高学年頃から「一度好きなようにやらせてみるレッスン」、「いくつか奏法などの提案をするレッスン」に変わっていきます。録音したものをまず自分で聴き考える。先生から提案があったものを試してみて最終的には自分で選ぶ。こうした手法によって、感性や響きを作る力が伸びるのだなと感じました。

身体的にも精神的にも、ルーツも宗教も何もかもが一人ひとり違う。それが当たり前である環境で育ってきたフランス人との生活は、音楽は勿論、人間的にも成長できたかけがえのない時間だったと思います。このような経験から、一人ひとりの個性を尊重する教育方針に魅せられ、今度は私が日本で、フランスで吸収したことを伝えられるようなレッスンをできるようになりたいと思うようになりました。異なる人種やジャンルの芸術家と知り合うことができるパリ国際芸術都市に滞在させていただけたこと、フランスで生活をさせていただけたことに、改めて御礼申し上げます。

ハイチ出身のギターリストのプロジェクトに参加

パリ国際芸術都市のベランダからの風景


前澤りなさん(ボルドー地方音楽院卒業)
滞在期間:2018 年 9 月~ 2020 年 8 月
研修機関:パリ6区立音楽院(2018-2019)、ボルドー地方音楽院(2019-2020)

前澤りなさん体験談
2018年から2年間、フランスで確立されたクラリネット演奏法の理解を深めるためにパリに留学しました。その間、「パリ国際芸術都市」に滞在しました。

1年目は、セーヌ川を挟んでルーブル美術館の南側に位置するパリ6区立音楽院で、ブリュノ・マルティネーズ氏のもと、クラリネットの基礎奏法の強化に取り組みました。同氏は、パリ国立オペラのクラリネット奏者なので、オペラやバレエのプレ公演に招待してくださり、たくさんの総合芸術作品を聴くこともできました。また、シテ・デザールに住むフランス、ドイツ、ベルギー、アメリカ、チリ、台湾、中国等、様々な国籍の音楽家たちとの交流もさかんで、彼らとコンサートやアートフェスティバルに参加し演奏経験を積むこともできました。

長い休暇を利用して、スペインで開催されたJuliánMenéndez 国際コンクールに参加しました。ファイナルまで駒を進めることができましたが、スペイン人の強烈な演奏表現力に力及ばず…。しかし、フランスとは異なる演奏スタイルのクラリネット奏者たちに出会え、とても刺激的で興味深い経験ができました。

滞在したアトリエのある別館 Rue Geoffroy I’ Asnier


アートフェスティバル。Subodh Gupta 氏の作品「Ali Baba」にてコンサート

スペインで参加した講習会の受講生たち


2年目は環境を変え、ボルドー地方音楽院に移り、リシャール・ランベール氏のもと、演奏表現力について深く学びました。 アンサンブルのレッスン、オーディション(トーナメント)のたびに、クラリネット科の学生たちと異なる会場に行き、プロのクラリネット奏者の前で演奏を重ねました。その結果、リヨンのクラリネットコンクールでは2位を受賞することができました。 週 4 回のパリからボルドーへの往復約5~6時間の通学は決して楽なものではありませんでしたが、沢山の経験を積み、成長することができたと実感しています。

しかし、残念なことにフランス全土での大規模なストライキやコロナウイルスの世界的大流行で、学びや演奏の機会が失われ、苦しい年となりました。 外出禁止令が出ると、パリの街はすっかり静まり返りました。その間、パリ国際芸術都市の自室にこもって、ひたすらクラリネットの勉強に没頭しました。長く終わりの見えない外出禁止令への不安、感染症への恐怖、人に会えない寂しさなど、様々な感情を抱きました。そんな状況でも、国際芸術都市のすばらしい練習環境、いつもサポートしてくださる職員の方々のおかげで、55日間の外出禁止令を終えることができました 。 そして、無事ボルドー地方音楽院を修了し、 DEMDiplome d etudes musicale :音楽研究資格)を取得することができました。

パリ国際芸術都市での2年間の研修を出来たことを大変うれしく思います。ここで得た経験は大きな自信となりました。今後の音楽キャリアに役立てたいと思います。

練習を重ねた楽しい仲間たち(右が前澤さん)

再建中のノートルダム大聖堂は「パリ国際芸術都市」のすぐそば