パリ国際芸術都市
「パリ国際芸術都市」(Cité Internationale des Arts)は、フランス政府が芸術家に活動・研修滞在施設を提供することを目的として設立した財団により、パリの中心部、セーヌ川沿いに建設された宿泊施設です。1965年から世界各国の芸術家に開放されています。 フェリス女学院では、音楽研修・活動を行う芸術家のためのアトリエ(2室)の使用権を所有しています。学院の教員等が芸術活動を通じて、日仏相互の文化交流に寄与すること、さらに本学の学生、同窓生等が西欧文化の凝縮してあるパリにおいて、専門技芸を一層向上させ、学院の目指す教育効果をより確実なものとすることにより、国際的な人材を育成することを目的としています。
利用方法
利用希望者は、利用者募集要項を確認の上、必要書類を総務課に提出してください。本学音楽学部教授会が候補者を決定し、パリ国際芸術都市
理事会に推薦します。
以下の募集は、締め切りました。次回の募集をお待ちください。
2024 ~ 2025 年利用者募集中(~ 2024 年2 月22 日締切)
利用者の声
藤井るかさん(スコラ・カントルム音楽院)体験談
滞在期間:2022年11月~2023年9月
研修機関:スコラ・カントルム音楽院
私は桐朋学園大学大学院修士課程において Claude Achille Debussy (1862~1918) の音楽以外の芸術家との関わりと、彼の作曲への影響について研究し、修士論文『ドビュッシーの音楽以外の芸術作品への関心と自身の作品への影響―《前奏曲集 第1集》、《前奏曲集 第2集》より ―』を執筆しました。
私が留学先をパリに決めた理由は、Debussy が生まれ育ち、活躍したパリに身を置き、フランスの人々の生活、言語、歴史、哲学、政治、宗教、文化、芸術に触れ、肌で感じ、より彼の作品への理解を深めるためです。さらに、ヨーロッパの中心地であるパリを拠点に作曲家と深く関わりのあったヨーロッパ各国を訪れて見識を広め、更なる演奏表現の幅や、技術の向上を図るため、この地に留学をしています。
現在パリに滞在して早くも1年となりますが、これまでたくさんの美術館を訪れ、古代ローマ時代の遺跡から、宗教画、Debussy と深く関わりのあった象徴派の絵画、そして現代アートに至るまで数多くの美術作品を目にし、作曲家の生きた時代や作曲に与えた影響をその作品から感じ取ることができました。写真が存在しない時代の絵画はその時代の事象を残した貴重な存在であり、当時作曲家がどのような環境で生活を送っていたかを想像できます。
また、作曲家の生家やお墓を訪れ、彼らの軌跡を辿り、当時作曲家たちが実際に演奏していた教会や宮殿などの歴史的建造物の内部を見学することは、パリに滞在していなければ体験できず、クラシック音楽を学ぶ私にとって非常に重要な経験です。それにより、曲への理解もより明確になり、私たち演奏家は、作曲家が楽譜に表現しきれなかった、彼らが当時生活の中において五感で感じ得たものを察知し、曲に込めた想いをより具体的に表現することが可能になります。
Cité Internationale des Arts (パリ国際芸術都市)はパリの中心地に位置し、窓からはセーヌ川やエッフェル塔、ノートルダム大聖堂や、Victor Hugo、Marie Curie などパリで活躍した詩人や研究者が眠るパンテオンを眺められ、当時作曲家たちも目にしていただろうこの風景を毎日見られる環境に身を置くことにより触発され、フランス音楽の表現に大いに生かすことができました。また、ここに滞在する音楽家や他の芸術家との意見交換は自身では気づかない部分の発見もあり、よい刺激となりました。学生の身の私にとって留学初期を Cité Internationale des Arts に滞在してフランス芸術を学ぶことができたことは、非常に有意義な留学生活を送ることにつながりました。
フランスは学生に対する支援が手厚いため、25歳以下の学生は美術館などに無償で訪れることができ、さらに世界の第一線で活躍する音楽家の演奏も容易に観に行くことが可能です。Cité Internationale des Arts はコンサートホールやその他芸術文化施設へのアクセスも良いため、 夜の遅い公演にも不安なく勉強しに行くことができました。これまでも Maria João Pires、Sir András Schaff、Khatia Buniatishvili、フジコ・ヘミング、Yuja Wang をはじめ多くの演奏家の生演奏を聴きましたが、それらにより感化され、自身の演奏に反映されています。フランスの人々の日常に溶け込むように存在しているクラシック音楽の演奏を、演奏家と 聴衆両者の立場で聴く体験は、私自身の演奏を見直し、より深い演奏表現につながります。クラシック音楽が生まれ発展したヨーロッパの地で、コンサートにおける演奏家と聴衆との一体感を感じられることは日本では体験することが難しいため、私にとって非常に勉強になりました。
また、パリはフランス国内の都市や、ヨーロッパ各国へのアクセスが容易であるため、私はこの1年の間にフランスのモンペリエ、ニース、ロワール地方、ナントや、ベルギー、スイス、イギリス、ポーランド、オーストリア、チェコ、イタリア、スペイン各国の主要な都市を訪れ、その街に存在する、文化、芸術、言語や生活する人々の雰囲気に触れ、また、その地で生まれ活躍した音楽家の生家やお墓にも訪れました。国毎に絵画や建造物、音楽を含む芸術の表現方法が想像以上に異なり、それぞれに特徴があって、実際に訪れなければ感じ得ない空気感を味わうことができたことは、今後も様々な国の作曲家の楽曲を学び続ける私にとって何にも代えがたい貴重な体験となりました。
私は今年度もSchola Cantorumに在籍し、Billy Eidi 氏の下ピアノの研鑽を積んでいます。
Billy氏はフランス音楽を得意分野としており、私は、彼の指導によりフランス人のもつリズム感や、音楽や他の芸術への考えや姿勢、そして、具体的なフランス人の作曲家の楽曲の演奏テクニックや、表現方法を学ぶことができています。昨年度私はConcours Internationale de Musique YOUNG OPUS (Vanves) に参加し、Concertiste - Piano部門にて第2位を受賞しました。Debussyの生まれ活躍したパリで、彼の作品を演奏し受賞できたことは、大変こころ嬉しいことであったと同時に、改善点も発見できて私にとっては素晴らしい体験でした。今年度も国際コンクールに積極的に参加し成果を出していきたいと思います。
日本に帰国後はパリに滞在することにより体感し、学んだフランス独自の文化や芸術の知識や経験を生かし、更にDebussy を中心としてフランス音楽の研究を続ける予定です。そして微力ながら日仏の文化交流に貢献していきたいと考えています。
中野真帆子さん(フェリス女学院大学非常勤講師)体験談
滞在期間:2022年9月~2023年8月
昨年秋より1年間、パリの国際芸術都市に滞在させて頂きました。パリ国際芸術都市は留学時代にもお世話になった、思い出深い場所です。フェリス女学院大学の音楽学部で後進の指導に携わるようになってからも、フランスへは演奏やコンクール審査等で定期的に訪れていましたが、コロナ•ウイルスの出現によって渡航の自由も制限され、フランスでの活動も不規則になっていました。しかし今回、国際芸術都市に入居させて頂いた9月初めにはフランス国内の感染防止対策も緩和され、オリンピック開催に向かって活気づく、溌剌とした本来のパリの日常が戻っていました。
午前10時から夜の10時までパリの中心で練習できる環境、各図書館や資料館へのアクセスもほぼ15分以内という恵まれた立地は非常に理想的で、コンサートの準備や紀要の執筆、調査研究に心おきなく集中することができました。
他方、居住者同士の親睦を深める交換会も盛んで、館内の中庭ではダンス•パフォーマンス、自らのスタジオを解放して作品を披露するオープン•スタジオ、併設されたホールでは講演会やコンサートが頻繁に開かれていました。
沢山の出逢いと再会の中、国籍や民族、宗教の異なるスタッフやアーチストとの交流は音楽のみならず、メディアを通して漠然と理解はしていても実感できずにいた、現在の世界動向を肌で感じ続けた一年でした。滞在させて頂いたお部屋が第二次世界大戦で犠牲になったユダヤ人記念館の隣に位置していたことも、日々、戦争のひきおこす凄惨さに思いを馳せる一因になりました。
知人のサロンで年明けに演奏したSOS Chrétiens d'Orientへのチャリティー•コンサート、休憩無しで80分サル•コルトーでのリサイタル、アルデッシュ県知事公邸でのプライベート•コンサート、ブルターニュ地方、Séréac城でのサロン•コンサート、ピエール・カルダン•フェスティバルで共演したVéronique Fourcaud女史の招聘で実現したロット県でのプレ•コンサート等、忘れ難い思い出のページがまた増えました。
滞在中、階下の水漏れによって急遽、部屋の移動を余儀なくされたり、年金受給年齢引き上げに反対するデモやゴミ収集人によるストライキ、人種差別への反対運動に乗じた暴動が多発したりと、ウイルス感染対策の収束で、しばらく忘れていたパリならではの光景が甦り、さまざまな思いが交錯しましたが、このようなかえがえのない機会を与えて下さった音楽学部の先生方へ感謝しつつ、この滞在で得たことを、可能な限り今後の活動や大学でのレッスンに反映していく所存です。