まずは、そのまま受け止めてみる——心理学の科学的な視点が、人を支える力になる

心理コミュニケーション学科 心理専攻

大上 真礼准教授

「なんで人によって違うんだろう」から始まった心理学

私の専門は心理学、とりわけ臨床心理学です。心の悩みや病気を抱える人の回復をどう支えていくかを研究するとともに、臨床の現場でも活動しています。

もともと、人によって行動や感じ方が違うのはなぜだろう、ということに興味がありました。最初は生物学を学ぼうと大学に進学したのですが、入学してみると、思い描いていた大学生活とは少し違っていました。誰とでも仲良く、いつも上手に振る舞える——そんな「キラキラした大学生」になれると、期待が大きすぎたのだと思います。

実際には、日によって接し方が変わる人がいたり、集団になると考え方や振る舞いが変わる人がいたり。もちろん、私自身にもそうしたところがあったと思います。人間関係の難しさや、人それぞれの感じ方の違いに触れる中で、「人の心」への関心がいっそう深まっていきました。

「後悔しないように、学びたいことを学ぼう」と、理系から文系に移り、心理学や教育心理学を学べる学科に進みました。そこで心理学の面白さに引き込まれ、今に至っています。人による考え方の違いをつい調べたくなるのは、このときの経験が根っこにあるからかもしれません。

現在は、高齢者が感じる「むなしさ」についての研究を進めています。これまでは60代と70代といった年代による違いを調べてきましたが、今後は首都圏、北陸地方、中国・四国地方など、暮らしてきた地域や生活背景による違いにも目を向けたいと考えています。雪の多さや車中心の生活かどうか、家族構成や地域の文化などによって、楽しみや困りごとにどのような違いがあるのか。そうした点を統計的に分析していく予定です。ゆくゆくは、私自身が「笑って最期を迎える」ためのヒントも見つかればうれしいですね(笑)

大学は、小さな“かすり傷”をつくれる場所

前期の授業では「心理学概論」を担当しています。心理学というと「人の心を読むこと」をイメージする方も多いのですが、実際には多くの研究の積み重ねによって成り立つ科学です。そのことを知ってもらいながら、基礎となる知識をしっかり身につけてもらうことを大切にしています。「自分が体験してきたことに名前がついていたんだ」と、謎が解けたような感覚で楽しんでくれる学生も多いですね。

心理学に興味を持つきっかけとして、自分自身や身近な人のつらさを挙げる学生もいます。その気持ちは大切にしてほしいと思いますし、同時に、人を支える立場を目指すうえでは、まず自分が健康であることが欠かせません。やさしさや思いやりだけでなく、科学的な視点で人の心を捉えること。それが、専門職として人を支えるうえでの土台になると考えています。

ゼミのキーワードは「心の変化と適応」です。心理学の幅広い領域の中から、学生一人ひとりが「今の時代に何を調べたいか」を一緒に考え、研究計画を立てるサポートをしています。コロナ禍を経て化粧に対する意識がどう変わったのかをインタビューで探る学生もいれば、アイドルに向ける思いと身近な恋人に向ける思いの違いや共通点を調べている学生もいて、テーマは本当にさまざまです。

フェリスの学生と向き合う中で感じるのは、「何のために取り組むのか」「どのようなことにつながるのか」が見えると、とても意欲的に取り組んでくれるということです。ですから私自身も、「この時期までに、これが必要になるから」「今準備しておくと、こういう場面で役に立つから」と、目的や理由を丁寧に伝えるようにしています。

また、大勢の受講生の一人としてではなく、「〇〇さん」という一人の学生として、その取り組みや成長を見ていることが伝わると、学生の姿勢にも変化が見られます。対面で、少人数で、教員の目が届くところで学べるのは、フェリスの魅力ですし、その環境を活かしながら学ぶ学生が多いと感じています。

以前、心理コミュニケーション学科の竹野先生が「大学はかすり傷をつくっていく場所」とおっしゃっていましたが、私もまさにそう思います。わからない、不安だから何もしない、ではなく、うまくいかないことも含めて相談していいし、試していい。「こうやったらうまくいった」「これは違うと言われた」という小さな経験を重ねられる場所が大学なのだと思います。

自分の気持ちに素直であることは大切ですが、思ったことを何でもそのまま口にすることとは少し違います。気持ちにふたをするのではなく、どうすれば相手に伝わるのか、言葉やタイミングを考えてみる。自分も相手も大切にできるコミュニケーションを、大学生活の中で育んでいってほしいと願っています。

授業の様子

まずは、「そのまま」受け止めてみてほしい

学生の皆さんに大切にしてほしいのは、学ぶときの「構え」として、誠実さや率直さを持つことです。情報を自分に都合よく解釈するのではなく、まずは自分の思い込みを脇に置き、何が示されているのかを受け止めてみる。これは、心理学を科学として学ぶうえでも、とても大事なことだと考えています。

人は、自分で思っている以上に、自分なりの色眼鏡でものごとを見ているものです。私自身もそうです。そして、自分の見方にどのような偏りがあるのかは、自分だけの世界にいては、なかなか気づくことができません。気づかせてくれるのは、周りにいる他者の存在です。人と対話し、互いの見方の違いに触れながら、自分の視点を少しずつ見直していく―そうして学び合うことが、成長につながっていくのだと思います。

この姿勢は、人を支援する場面でも活きてきます。相談を受けたとき、すぐに「私はこう思います」と自分の考えを伝えるのではなく、まずは「あなたは今、こう感じているのですね」と、相手の気持ちを受け止める。それだけで、安心される方もいらっしゃいます。接客の仕事でも、データを扱う仕事でも、自分の思い込みで判断せず、相手の思いや目の前の事実に向き合う姿勢は、きっと役に立つはずです。

完璧な人間はいません。だからこそ、お互いを温かい目で見ながら、助け合って生きていける人になってほしい。フェリスを、そんな学びの場にしていきたいと思っています。

教員情報を調べる

More Interviews